高林監督、16年ぶり新作「愛なくして」
高林陽一監督
高林陽一監督

「愛なくして」から=シネマトリックス提供
「愛なくして」から=シネマトリックス提供

 60〜70年代の前衛映画をリードした高林陽一監督の「愛なくして」が、東京・ポレポレ東中野で上映されている。16年ぶりのメガホンとなる新作は、死と向き合う人間の尊厳を問う映像詩。同劇場では、併せて「魂のシネアスト・高林陽一の宇宙」と銘打ち、「すばらしい蒸気機関車」など旧作18本も特集上映する。

 高林監督は31年、京都生まれ。60年、8ミリ作品「石ッころ」が、イタリアの国際映画祭で金賞を獲得。その後ATGで「本陣殺人事件」など商業映画の話題作も発表。86年の「魂遊び ほうこう」を最後に映画から遠ざかっていた。

 「当時僕は55歳。撮りたいものがなくなり、映画から離れてみるのもいいかなと思って。その後、映画が粗末に消費されていくひどい現状を見て、ますます映画への希望が持てず、16年もたってしまった」

 そんな時、京都で劇団を主宰する遠藤久仁子さんから「関西には苦労しながら地道に活動している役者がたくさんいる。彼らの姿を映像にとどめてもらえないか」という依頼を受けた。高林監督は「遠藤さんの純粋な思いに触れ、やっと、もう一本撮ろうかという気持ちがよみがえった」。

 この映画は、栗塚旭らキャストが先に決まり、俳優に合わせ高林監督がオリジナル脚本を組み立てていった。安楽死を望む老人、夫に先立たれた妻……。彼らが一本の物語を紡ぐのでなく、それぞれに思考し行動していく。

 「私なりの死生観に俳優さんをあてはめていくという形を取った、彼らの存在感をフィルムに定着させるにはストーリーのあるドラマじゃ駄目だと思った。登場人物がどう生きるかと同時にどう死ぬかについて考える。そんな日本的な主題を表現してみました」

 7月2日まで。

(2004/06/21)